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恐怖のユースホステル

更新日:2023年9月15日



 旅に出るための道具の準備、往復のフェリーに旅費の全てを親に出してもらっているので、出来るだけ出費を抑えて旅をしたかったし、第一キャンプが好きだった。


 それでも数日ごとに洗濯をしたかったので、そういう時はユースホステルに泊まった。


どこに泊まるかは前日の夜に決めていた。


 夜、テントの外でランタンの灯りの中、ツーリングマップを見て、およそ自分が1日に走れる距離の中で泊まれそうなところを見つけ、明日の目標とする。


 当時はまだポケベルが主流で、PHSを持ってるクラスメイトがもてはやされる時代。


 今のようにスマホでグーグルマップを出して現在地はGPSで正確に、、なんて考えもしない時代。僕は夜な夜なツーリングマップの厚い本を見て明日の進路、目的地、観光地を知り、記憶して旅をする。だからだろうな、いまでも道筋や光景を良く覚えている。


 話が反れるけどいつも思っているから言いたい。技術が進歩して、暮らしが楽に豊かになるほど、人の力は衰退していく。ガスコンロしか知らないからちょっとキャンプで火が熾せただけですごいとかキャーキャー言われる。車にはバックモニターがついたせいでサイドミラーやルームミラーの使い方も知らない人がいる。スマホが無いとどこへも行けない、海外へ行くのにもレンタルWi-Fiが無いと外国人と話せない。全く情けない。過剰に便利になり過ぎていることに気が付くべきだし、その便利さのために地球の自然が脅かされ、絶滅する動植物があることを少しは意識するべきだ。


 話を戻します。


 とにかくそうやって毎晩、明日の目的地を決めて旅を進めているわけだけど、そう都合よく、程よい距離にいつもキャンプ場が見つかるわけでもなく、その日は1件のユースホステルのみが候補だった。その前後には何もなく、その日はどうしてもそこだった。


 申し訳ないけど、ちょーっとだけ、嫌だった。


なぜならそのユースホステルがお寺さんだったから。笑


 四国八十八か所のうちのひとつだった。ということは、歴史ある感じだよね。

由緒正しきお寺さんでしょうけど、泊まりたくはないよね。ましてや中学生がひとりでね。


 でも、もうそこしか距離的に考えられない。


節約が大前提だし、ビジネスホテルにしちゃおうなんてアイデアは中学生にはない。


大丈夫、ユースホステルだから、きっと他の宿泊者もいるだろう。


 という期待は、到着するなりさらりと崩れた。


今日はおひとりですと通された畳の部屋は20畳はあろうかというほど大きな部屋(実際に数えてはいないけど、そのくらい大きく感じる圧迫感があった)が、仕切りのふすまが取り払われた状態で何部屋もつながっていて、まぁとにかく広かった。


 そんな宴会場と見間違うほど大きく、そして薄暗いお寺さんの中で、僕一人。


 自分でふとんを出してお休みください。って。


ほんとに恐怖だった。


 ちなみに、ここは食事は出せない宿で、道路の反対側の喫茶店がここらで唯一の飲食店だと教えられた。自転車で行ける範囲にコンビニやスーパーもなく、選択の余地無しだった上に、もう少しで閉店するだろうから早く行った方が良いと急かされたもんだから、だだっぴろい貸し切り宴会場に荷物を置いて喫茶店へ急いだ。


 夕方17時とかに閉まるお店だからか軽食しかなくて、サンドイッチだけあっさり食べて終わった。


 その後恐怖の貸し切り宴会場に戻って寝たはずだが、喫茶店を出てからの記憶が無い。


恐かった思い出はある。


 お寺さんのユースホステルは避けた方が良いと学んだ夜だった。


 おしまい


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